今後の和牛の展望 海外市場のニーズとは
2025.01.16その他
国内の肉牛生産者は、飼料価格の高騰と素牛価格の低迷で非常に厳しい状況が続いています。
これから肉牛経営を続けられるか不安を抱かれている方は多いと思います。
素牛価格だけにとどまらず枝肉相場も低迷していますが、和牛自体の価値は下がっておらず、世界的な和牛の需要は年々高まっています。
現在の枝肉価格の低迷は一時的であり、将来的には枝肉単価は上昇します。
しかし、今までのように全ての枝肉単価が上がるのではなく、市場のニーズに適した枝肉は高値で取引され、市場が求めていない枝肉は安値で取引されるように、価格差が広がっていくでしょう。
今後の肉牛生産は、市場のニーズに答えられる牛を、省コストで安定的に生産できるかが重要になってくると思います。
それでは市場が求めている和牛というのはどういう和牛なのでしょうか。
今後、重要になってくる米国での和牛市場を紐解いて、今後の和牛のニーズのヒントを探ってみます。
米国は世界最大の食肉の市場です。和牛の対米輸出は、輸出量と輸出金額が着実に拡大しています。(図1参照)
図1 注:2021年は1月~11月の数値を集計。※財務省貿易統計
米国の和牛市場には20年以上前から米国産のWagyuや、豪産のWagyuがすでに流通していました。日本産和牛は、2020年以降の低関税枠の拡大によって流通量を一気に増やしたので後発です。日本産和牛は出遅れましたが、他を圧倒する品質の高さを差別化することで米国市場のシェアを増やしています。
和牛肉は、従来は日本食レストランのみで提供されていましたが、最近はジャンルを問わず和牛を扱うレストランが増えました。
最高の食材を求める高級レストランは、日本産の和牛でも神戸牛を選んで使用しています。
また、米国のシェフにも、産地によって和牛の味が変わることに気が付いているシェフが増えてきています。
一方で、一般的な米国の消費者は、生まれてから一度も和牛肉を食べたことがない人が多いです。
そういった一般の人が、旅行でフロリダやラスベガスに訪れた際に、訪れたレストランで生まれて始めて和牛を食べて感動します。
米国でのレストランが和牛に期待することは、非日常的な食事体験を来店者に味わってもらえることです。
米国産や豪州産Wagyuは、和牛の遺伝子は使用していますが、飼育方法などが現地と同じなので、現地の牛肉に霜降りが多く入った程度です。
日本産の和牛は、そのような現地の牛肉とは全く別物です。
一度も和牛を食べたことがない人は、和牛を食べたら口の中で溶ける触感に驚くでしょう。
米国市場が求めている和牛肉は、Wagyuと差別化できる、霜降りがしっかり入った和牛です。
和牛でA2やA3という格付けは、脂の量が少なくて、食べたら美味しいかも知れませんが、Wagyuとの差別化が難しくなることから米国での需要は少なくなります。
そのため米国市場が求めている理想の和牛肉は、A5でしっかりとサシが入り写真映えする和牛肉です。
また日本から和牛肉を輸出すると、肉の重量に対してキロ1,200円の航空運賃がかかります。また米国の関税で26.4%の税金がかかります。
航空運賃と税金が高いために、米国へは主にロイン系のみ輸出されています。
小さいロインを米国に輸出しても利益が少なくなることから、輸出には少しでも大きいロインが求められます。
また通常は米国に輸出される枝肉は、ロインだけ輸出して、その他の部位は日本国内に残ります。
その枝肉の脂肪交雑が強く、モモまでサシが入っていると日本に残る部位も販売しやすいです。
もちろん和牛ですので、上記の条件の加えて脂質の良く美味しい和牛が求められます。
参考までにミルクネットグループが実際に米国へ輸出した事例を紹介します。
令和6年10月に大分県畜産公社の枝肉セリで一頭購買してフルセットで米国へ輸出しました。
私たちが選んだ枝肉は、葵白清×福之姫×百合茂の雌、枝重496キロ A5 オレイン酸58です。
この枝肉は分割されて冷蔵でニューヨークへ空輸されました。
現地の販売会社が、クリスマス前にレストランへ納品して大好評だったそうです。
米国が求めている日本産和牛は、BMSが高く、ロース芯が大きく、ロインの重量が大きい枝肉です。
また日本に残るモモにも、霜降りが入っている枝肉が好まれます。
これからの和牛生産は、国内向けのニーズのみならず、海外市場のニーズにも合わせていく必要があると考えます。