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乳用牛の流産、受精卵の胚死滅について ~➀流産の要因、予防と管理~
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乳用牛の流産、受精卵の胚死滅について ~➀流産の要因、予防と管理~

2024.05.02その他

乳用牛は和牛に比べて流産や胚死滅の割合が高く、手間暇をかけ受胎しても流産や死産になると、乳量減による予定して乳量が確保出来ない、また母体へのダメージも大きく経済的な損失が発生します。

流産は様々な要因に起因します。そこで、数回にわけて流産や胎児死の原因と対策をまとめました。

まず今回は流産について書いていきたいと思います。

流産には大きく分けて飼養管理による要因環境による要因による2つの要因があります。

飼養管理による要因について

1.栄養的原因

飼料からの栄養は流産を引き起こす要因のひとつです。栄養による流産は、セレン、ヨウ素、ビタミンAの欠乏により起因することが最も多いです。さらに、アミノ酸は乳牛の早期妊娠流産(28~ 61日)の減少に関与している可能性があります。またアミノ酸は、胚を大きくすることも確認されています。

2.ホルモンによる原因

ホルモンは、投与または体内の循環濃度の異常によって流産を引き起こす可能性があります。体内を循環するプロジェステロンの濃度(黄体機能不全)を低下させる、または胎盤機能が低下すると、流産の原因となる可能性があります。

3.分娩から受胎までの間隔

分娩から受胎までの間隔が短い(63 日以下)牛は、その後流産するリスクが高いです。

4. ボディコンディション

分娩後にボディコンディションスコア(BCS)(1~5段階)が大幅な低下(1単位以上)すると、乳用牛は早期に流産のリスクが高まります。

5.キュービクルと敷き藁

キュービクルに厚い敷き藁を敷く方が、マットレスを敷くよりも流産の発生率が低い傾向があります。

6.暑熱ストレス

牛が温暖な気候で妊娠した場合(暑熱ストレス)、涼しい気候で妊娠した場合よりも流産のリスクが高くなります。

7.乾乳

乾乳は乳用牛にとって大きなストレスとなります。もし母牛が潜在的にサルモネラ菌に感染していた場合、乾乳のストレスをきっかけに再活性化し流産を引きおこす可能性があります。

8.牛群の大きさ

牛群の規模が大きいと(700~ 799頭)、小規模牛群(50 ~ 99頭)に比べて流産率が高くなる可能性があります。妊娠牛を分離するか群を分けて管理することで、身体的または病気感染による流産を防ぐことが出来ます。

9.身体的原因

物理的外傷を原因としても流産をします。例えば、闘争や、転倒することで流産することもあります。

10.蹄病

蹄病を患い足裏に出血のある牛は、早期(32~64日)の胚・胎児死亡になる確率が高まります。

11.削蹄

分娩の1ヶ月月前に削蹄を行った牛は、それ以前に削蹄を行った牛よりも流産する確率が高くなります。

環境による要因について

1.品種と種雄牛

ホルスタイン・フリージアン(HF)種の牛の流産率は、ジャージー種、ノルウェージャン・レッド種、その他の品種の牛よりも高いことが分かっています。和牛では遺伝病を保有する福之姫や福勝鶴などが、早期胚死滅や流産が発生しやすい傾向があります。

2.感染症による流産

牛の流産は 42% が感染症であるという報告があります。過去 10 年間に国際的に最も多く診断された牛の流産原因はネオスポラ・カニヌム(Neospora caninum)であり、次いでトゥルーペレラ・ピオゲネス(Trueperella pyogenes)、牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)、真菌であることが多くの研究で示されています。

➀ネオスポラ・カニナム(Neospora caninum)

ネオスポラ・カニナムの感染は世界のほとんどの地域で報告されており、米国、ニュージーランド、オランダ、日本、ドイツでの研究によると、乳牛の流産胎児の12~45%がこの菌に感染しています。この病気の特徴は、妊娠4~6ヵ月での流産であり、牛の流産の感染性原因の中では珍しい時期です。非常に感染率の高い寄生虫で、牛群によっては感染率が90%に達することがあります。

この感染症を防ぐには、ネオスポラ抗体陽性牛を淘汰するとともに、犬を牛舎内に侵入させないことが重要です。犬はN. caninumに感染した胎盤や胎児を食べて感染症を広めてしまう危険性があります。

②ピオゲネス菌(Trueperella pyogenes)

研究によると、T. pyogenes(アクチノミセス・ピオゲネス)は流産を引き起こす主要な病原体です。現在のデータでは、流産の3~17%に関連しているとされています。

③牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDv)

牛ウイルス性下痢ウイルスは、世界中に分布する主要な牛の病原体です。現在のデータでは、BVDv は流産の2~6%に関連しています。妊娠初期の2ヵ月の間に感染すると、妊娠を維持することが出来ず、再び発情が来る可能性があります。出産まで 5ヶ月の間に感染した牛は、流産するか、奇形の子牛を出産する可能性があります。

④真菌性流産

流産を誘発する真菌の発生源は、カビの生えた飼料や埃の多い空気中の胞子であると考えられています。多くの場合、それら発生源は家畜舎内に存在し、その後、胎盤や胎児に真菌が血液感染すると考えられています。データでは、真菌は流産の1%から8%に関連しているとされています。

乳用牛の流産における予防と管理

1.栄養管理

牛の妊娠期間中は、子牛と牛の健康を維持するために、栄養要求量が増加します。推奨される栄養素は、エネルギー源となる炭水化物、成長に必要なタンパク質、1日5~15リットルの水、アミノ酸、リン、ミネラル、ビタミンです。妊娠中の牛が、栄養不足、ボディコンディションスコア(BCS)の低下、病気など、異常がある場合は、流産や胎児死亡のリスクが発生しやすくなります。

2.ワクチン接種

牧場での流産が多い場合は、まずは感染症に感染していないか検査をして下さい。計画的にワクチンの接種をして感染症に対策をとる、牛群の密度を減らしてお互いに感染させない対策も必要です。またバイオセキュリティとして、道具、車両、人、動物を管理することも必要です。

3.ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の利用

ゴナドトロピン放出ホルモンは脳の下垂体を刺激し、黄体形成ホルモン(LH) と卵胞刺激ホルモン(FSH)を産生・放出させます。近年、乳牛における GnRH の使い方は変化して、排卵する前からホルモンコントロールをする方法へと進化しました。

この新しい方法は排卵前にエストラジオールが存在する時間を長くすることで、子宮機能と初期胚の発育を促します。さらに、排卵前にエストラジオールを多く浴びることで、母体が妊娠を認識してから胎盤の膜が癒着するまでの胚の損失を少なくなくすると言われています。牛の場合、GnRHは卵巣を刺激してエストロゲンとプロジェステロンを産生させます。多くの研究者が、プロジェステロンの濃度を高めることで 乳牛の妊娠率を維持することができると報告しています。

さらに、GnRH は卵胞や卵子の質を高める効果があります。従って、GnRH は乳牛の人工授精や胚移植に非常によく使われています。牧牛を使用するオーストラリア、ヨーロッパ、ブラジル、アメリカでは、未経産牛の妊娠を防ぐために GnRH を 3~ 12ヶ月間使用しています。イランやパキスタンでは人工授精後7日目にGnRHを100マイクログラム投与して受胎率を上げています。タイでは、GnRH を用いて授精 42日後の乳牛の妊娠率を維持しています。日本では、妊娠牛を長期間移動させる前や、季節の変わり目にGnRHを使用して妊娠を維持させることがあります。